先月の末、アメリカ同時多発テロ事件のグラウンド・ゼロ(ground zero)、ワールドトレードセンター(WTC)の跡地を訪ねた。
出張の最終日の朝。その日は午前中にJFKに入る予定だったので、朝はこれと決めて食関係の現場の視察をするというのもやりにくい。ならばと、米国人なり、ニューヨークの人々の心に触れる機会にと、駆け足で行ってみた。
土曜日の朝だ。ホテルのエレベーターで、見知らぬ白人と「おはよう」の挨拶を交わす。私は首からカメラをぶら下げていたので、彼は「今日はサイトシーイングか?」と聞く。それで、「9.11の現場に行くんです。それでお祈りをします」と答えたら、彼は深くうなずいて、「それはいいことだ」と賛同してくれた。
地下鉄。キップを買おうとしたら、ネクタイを締めた白人の兄ちゃんが、「そのクソッタレ券売機は動かねえから、お前はオレといっしょにあの窓口のおばちゃんからキップを買うんだ」と声をかけてきた。そうかなと、兄ちゃんと窓口に並ぶ。太った黒人のおばさんが、「はぁ? あんたら、キップはマシンで買うの!」と追い返される。
で、恐る恐る券売機に札を入れたら、案の定キップもお金も出て来ない……。
あ、話題違いますね。このことはまた別の機会に。
WTCに着くまで20分もあればと見ていたのが、例によって、地下鉄は番線が変わったり、終点が変わったりして、結局40分ぐらいかかった。やっと地上に出て、現場をうろうろと探す。
でも結局、現場はすぐに分かった。広い、広い工事現場になっている。その周りを「WTCProgress.com」など書かれた幕が囲っている。その幕に沿って、現場をぐるりと回る。ただひたすら、重機が動いていた。ろくに予習もせずに行ったせいもあるのだけれど、この周辺で祭壇や献花台のようなものは見つけられなかった。
人通りは少なかった。ときどき見かける人も、足早にここを通り過ぎる。そんな中、私ひとり時々立ち止まって、クレーンに向かって手を合わせる。なんだか場違いな感じなのだけれど、どうしてもそうしたくなる。
延々と歩いて一周。さあ、地下鉄に戻ろうと思った途端、突然目の下、鼻の周りが痛くなって、涙が流れ始めた。止まらない。叱られた子供のように、喉はひっくひっくと言う。何人かすれ違って、恥ずかしいので壁に向かって暫く泣いていた。
ハンカチで目の周りを拭いて、まっ赤な目のまま、地下鉄駅に向かった。