雑誌の編集者を志す気持ちを起こしてくれた雑誌のもう一つ。「意外」と感じるかもしれないけれど、それは「翼の王国」。全日空の機内誌。
このサイトのどの記事もそうなので、わざわざ断るのも何ではあるけれど、以下は私の主観。
「翼の王国」も、大人の世界を感じさせる雑誌だった。それに、全日空の仕事とは直接関係のなさそうな話題(たとえばお見合いの特集など)でも、丁寧に取材してまとめていて、好感が持てた。
全日空の仕事と直接関係ありそうな話題(たとえば、全国のご当地和菓子の図鑑のような記事)でも、さりげなさがあって、それがよかった。そういう記事は、「旅行は全日空で!」などと物欲しそうなことは言わないで、ただ淡々と、「旅行には楽しみがたくさんありますよね」とだけ言っているようだった。
写真もきれいだったけれど、決してビジュアルでおどかし倒すようなことはなかった。短いけれど、じっくりと読ませる記事というのもたくさんあって、移動中に退屈しない雑誌だった。同じ時期にときどき乗った日本航空も、東亜国内航空(後の日本エアシステム。現在は日本航空と経営統合)も、そう感じさせる機内誌は積んでいなかった。
ところがその後、何が何でも沖縄に行かなくてはならないような記事だとか、南の国のごく狭い範囲のリゾートや、観光地のレポートなど、広告としての記事ばかりが増えた。そういう記事は、「旅行には楽しみがたくさんありますよね」と言う代わりに「全日空で行けるんですよ、この島!」と言っているようだった。
バブル崩壊の頃から、その傾向が強くなったように記憶している。取材は浅く、誤字や文法の誤りも増えて、読んでいるこちらが恥ずかしくなる(今風に言えば“痛い”というやつ)ので、全日空に乗ってもほとんど読まなくなってしまった。で、暇つぶしは専らオーディオサービスの落語ということに。
まあ、あれ以降の「翼の王国」なんてどうでもいいや。とにかく、昔の「翼の王国」はかっこいい雑誌で、とてもあこがれた。あこがれをもらったことと、反面教師の姿を見せてもらったことと、二つの恩がある。