地名の由来として土地に伝わる話というのは、たいてい眉唾なものが多い。住んでいる近所では、「真姿(ますがた)の池」の由来の説明がどうにもぎこちない。
昔、ある美人が病気にかかった。美貌をそこなうような病だったらしい。そこで武蔵国分寺に平癒祈願のお詣りに行った。すると不思議な少年が現れて近くの池に案内し、池の水で身を清めるようにと言って姿を消した。果たしてその通りにすると病気は治り、元の美しさを取り戻した。そのため、本来の美しさという意味で「真姿の池」と言われるようになった……。
またまた。「真姿」という言葉は、普通使わないでしょう。「ますがた」と言ったら普通は「枡形」で、枡のような立方体、あるいは四角い形のこと。特に、城や屋敷の入口で、敵がなだれ込んで来ても直進できないようにする構造を指す。門の内側に四角いスペースができるように壁を作り、その右か左かにもう一つの門を作る。上から見れば、確かに枡のように見える。
実際の「真姿の池」を訪ねると、「お鷹の道」として整備された遊歩道は、この池の前でカーブし、クランクのようになっている。このカーブが枡形ととらえられたか。崖下にあるこの一帯がかつて枡形のように整備されていたか。この池は今は丸く中央に小島のあるドーナツ型の池だけれども、かつては四角かったのか。あるいは、この池のそば、崖下の水が湧く部分に四角い構造を作って水を少しせき止め、水を汲みやすいようにした箇所が枡形と呼ばれ、その目前にある池を枡形の池と呼んだか。
それのどれだろうかと考える方が、本来の由来に近いはずだ(お薦めは最後の案)。
とは言え、美人が池の水を使った伝説までも否定する必要はない。美しい、神秘的な話で、悪くない。
どうしても、落語の「ちはやぶる」を連想してしまうけれど。